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「人形愛」の館   三上 満良

この旧い建物「淡翁荘」はまるでシモンの人形を迎えるために存在していたかのようだ。人形たちは、昔からその場所に飾られることが決められていたように、ぴったりと洋館の内部に納まっている。時間が緩やかに流れる良き時代の建築物の中で、人形―異界の住人―たちが静かに呼吸する幻想のドールハウスが誕生した。

2000~2001年に開催された個展「四谷シモン―人形愛」のためにシモンは数点の新作を創った。そのほとんどが常識破りの大きな男の人形で、「髭面やスキンヘッドの裸の大男の人形なんて誰も引き取らないよ」と展覧会に関係した私たちは、その後の行き場を心配していた。しかし運命だったのか偶然だったのか四国の地に運ばれ、廃屋となった病院を転用したテンポラリーなギャラリーに二年間ほど展示されたのち、坂出の旧家の別邸に安住の場所を得た。それが、とびっきりの空間なのだ。昭和初期に建てられたというモダン建築は、シモンの作品、そして四谷シモンという人間が漂わせるゴージャスでデカダント、そして少しデンジャラスな雰囲気に実によく似合うのである。

上に述べたように、ここで公開される人形は近作が中心である。1970~80年代の美少年や美少女の作品ではなく、男の人形が大半を占めるのだが、そのことがこの館の気品を決定づけているような気がする。妖しさの中にクールなオトナの美学が感じられるのだ。

ところでシモン・ドールの基本形は箱入人形である。これまでの作品をたどると、この館に展示されている《目前の愛》などのように像が箱に封じ込められた様式が目につく。球体関節人形とはいっても高価なシモン作品の身体を動かして玩ぶようなコレクターはいないだろうし、ほとんどは最良の表情にポーズを固定されたままケース(箱)に入れて大切に飾られている。それらは"標本"を思わせるのだが、「像(ひとがた)を箱に閉じ込める」というのも人形愛のひとつの表現形態だろう。壮麗な洋館をまるごと一棟ケースにして、幾体もの人形を閉じ込めてしまった『四谷シモン人形館 淡翁荘』は、現世における人形愛の至上のかたちというべきか。人形とは、人形の魅力(魔力?)とは、そしてオトナのオトコの人形愛とはこういうものなのである。

三上 満良